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解説のない企画展。足利市立美術館「真島直子 地ごく楽」
通2丁目の足利市立美術館では、7月1日(日)まで、企画展「真島直子 地ごく楽」を開催しています。
この企画展は、約50年にわたり創作を続ける真島直子さん(1944-)の、初めての大々的な展示が実現したもの。作家の出身地である名古屋市美術館からの巡回で、足利が最終開催地。「地ごく楽」シリーズに代表される緻密な鉛筆による絵画、オブジェやインスタレーションによる立体作品を中心に展示され、近年の油彩画も鑑賞することができます。
学芸員の福島直さんにお話を聞きました。
緻密さ、宇宙的な広がりが共存する鉛筆画
「鑑賞する人によって、見えるものが全く違うらしいのです。」と福島さん。「植物がないでいるようにも、森のようにも、腸の繊毛のようだとも。」反復する緻密な線で描きこまれた鉛筆画は、最大で美術館天井までの大きなものあります。
紙を広げ、その上に正座した状態で、没頭して描き続けるのだとか。心が赴くままに描き、破綻した、と作家が感じた瞬間が完成のとき。壁面に展示したときに、作家本人も作品を初めて俯瞰して見るのだといいます。完成図の当てのないまま描かれた絵画は、作家自身の想像も超えたものになるそうです。
解釈は人それぞれ。解説を必要としない企画展
今回の展示には、解説がありません。「説明は野暮だと思います。」と福島さん。
作品の感じ方が、性別や年代によっても全く異なるのを日々実感しているそうです。不気味だ、グロテスクという人もいれば、繊細だ、美しいという人も。「入った時と出てくる時で作品に対する心持ちが変わる方もいる。日常にはない「体験」だと思うんですよ。」
真島さん自身も制作物に関する説明はしないのだといいます。作品をどう感じるか、捉えるか。「それが何であれ、鑑賞者の心に何か訴えるものがあれば、それが作者の歓びなのではないでしょうか。」と話してくれました。
作者が追い求める「地ごく楽」という根源的なテーマ
「地ごく楽」とは、「地獄」と「極楽」を併せた作家自身の造語です。「経済的な困窮、社会への不信、既存の概念に囚われたくないという気持ちを抱えながら、真島さんは、創作に打ち込み続けてきました。真島さんの作品は、「生」と「死」、「エロス」と「タナトス」を同時にまとい、制作の時期こそ異なるものの、絵画・オブジェともに、根底には同じテーマが貫かれています。
企画展の開催前から、足利の若者のなかにもタイトルやポスターに惹かれてこの企画展に興味を持ってくれた人がいるとの話が伝わってきたそうで、「若い人にも興味を持ってもらえたのは嬉しい誤算だった」と福島さんは話します。
「生」と「死」、両方を併せ持つ色彩豊かな立体作品
立体作品は、古着などの布、紐、糸、穀物、プラスチック片、鳥の羽、ビーズなどを、乾くと透明になる木工用ボンドで固めたもの。鉛筆画とは対照的に、色彩豊かです。人骨に装飾を施したような「妖精」や、口を大きく開け、何かを貪欲に求めるかのような鯉のオブジェは、濡れたような質感で、生々しさを感じさせます。
真島さん本人が配置に深く関わることで、鑑賞者が作品の中に身を置いたとき、より際立った世界感を感じることができます。細部まで視界に入るよう、高さや角度にもこだわった展示は、実際に足を運んでこそ楽しめる作品であるといえます。
(取材記事執筆:松村敬子、デスク:山田雅俊、校正:茂木諭子)
日時 | 企画展期間 2018年4月24日(火)から7月1日(日) 午前10時から午後6時(入館は午後5時30分まで)月曜日は休館日 観覧料 一般700円 高校・大学生500円 中学生以下無料 ※各種障がい者手帳をご提示の方とその付添者1名は無料となります。 |
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場所 | 足利市立美術館 栃木県足利市通2丁目14-7 |
※この記事に掲載されている情報は取材当時(2018/05/29)のものです。お気づきの点があれば、「あしかがのこと。」編集部へお問い合わせください。
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